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大阪地方裁判所 昭和50年(行ウ)9号 判決 1978年12月26日

原告 山本憲司 外四五名

被告 八尾市教育委員会

主文

一  原告らの本訴請求のうち、被告が昭和四七年七月一日付でなした通学区域変更決定の取消を求める部分の訴えを却下し、その余の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者双方の求めた裁判

一  原告らの請求の趣旨

1  被告が昭和四七年七月一日付で原告らを含む八尾市南本町六丁目居住の児童らの保護者に対してなした、右児童らの通学校を同市立高美小学校から同市立高美南小学校に変更する旨の通学区域変更決定を取消す。

2  被告が昭和五〇年一月一七日付で別紙保護者目録(一)記載の原告らに対してなした、右原告らの被保護者である同目録記載の各児童の就学すべき小学校を八尾市立高美南小学校と指定した各通知および同年二月二七日付で同目録(二)記載の原告らに対してなした、右原告らの被保護者である同目録記載の各児童の就学すべき小学校を同市立高美小学校から同市立高美南小学校に変更する旨の各通知を取消す。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する被告の答弁

1  本案前の申立

原告らの本訴請求のうち、被告が昭和四七年七月一日付でなした通学区域変更決定の取消を求める請求を却下する。

2  本案の申立

原告らの請求をいずれも棄却する。

第二当事者双方の主張

一  原告らの請求原因

1  原告らは、いずれも八尾市南本町六丁目の居住者であり、別紙保護者目録(一)、(二)記載の児童の保護者である。

被告は、地方教育行政の組織及び運営に関する法律(以下地教行法という。)により、教育機関の設置、管理および廃止ならびに児童の就学、転学等の処分および執行をなす権限を有する行政庁である。

2  被告は、昭和四七年七月一日付で原告らを含む八尾市南本町六丁目居住の児童らの保護者に対し、右児童らの通学校を同市立高美小学校(以下高美小という。)から同市立高美南小学校(以下高美南小という。)に変更する旨の決定(以下本件通学区域変更決定という。)をした。

右決定に基づき、被告は、昭和五〇年一月一七日付で別紙保護者目録(一)記載の原告らに対し、同原告らの被保護者である同目録記載の各児童の就学すべき小学校を高美南小と指定する旨の各通知(以下本件各就学通知という。)および同年二月二七日付で同目録(二)記載の原告らに対し、同原告らの被保護者である同目録記載の各児童の就学すべき小学校を高美小から高美南小に変更する旨の各通知(以下本件各転学通知という。)をした。

3  被告のなした本件通学区域変更決定は以下の理由により違法であり、取消を免れない。

(一) 手続上の違法

(1) 八尾市における小学校の通学区域の変更は、被告教育委員会が「八尾市立小・中学校通学区改正審議会」(以下通学区改正審議会という。)の答申を受けてこれを決定することとされているが、実際は、右審議が開催される三か月ないし六か月前、または例外的にこれと並行して、被告から予め関係住民・保護者に対して通学区域変更についての説明会が開催され、そこにおいて住民らの意見が十分聴取、検討され、その納得を得た上で行なわれるのが確立した慣例となつている。しかるに、本件通学区域変更決定は、事前にこれらの手続を経ることなく、原告らの意思を全く無視して行なわれたものであるから右慣例に違反する。また、従前関係住民らの納得を得て行なわれた通学区域変更の場合と対比して、著しく不公平、不平等である。

(2) 八尾市における通学区域変更に関する通学区改正審議会および被告教育委員会会議の審議はこれまで十分慎重に行なわれてきた。しかるに、本件通学区域変更決定の場合は、通学区改正審議会が開催されたのは昭和四七年六月一三日、同月二〇日、同月二七日の計三回に止まり、しかもこのうち被告から原案が提出されたのは第二回目の審議会においてであるから、第一回目の審議会は本件に関する審議をしたことにはならないし、第二回目、第三回目の各審議会においても、通学する児童数、校地面積などが審議されたに止まり、校区の線引きそのものについての審議は全くなされていない。また、被告教育委員会会議は、通学区改正審議会からの答申を受けた同年六月三〇日に招集、翌七月一日開催という極めて異例な早さで行なわれ、常識的にみて会議とはいえないし、しかも右会議の審議時間は一時間足らずに過ぎず、内容的にも校区の線引きについての審議がなされた形跡は全く見当らない。このような通学区改正審議会および被告教育委員会会議の審議は、従前慎重に行なわれてきた通学区域変更に関する各審議と比べ著しく不公平、不平等といわざるを得ない。

(3) 八尾市教育委員会会議規則五条によれば、被告教育委員会の会議は、開催の日時、場所、会議に付すべき事件を各委員に通知し、かつこれを告示して招集することとされ、また、同委員会会議については八尾市傍聴人規則が制定されている。しかるに、本件に関する被告教育委員会会議は、右会議規則五条に定める招集手続を経ずして開催され、また、右傍聴人規則にもかかわらず、原告らに対して何ら傍聴の機会が与えられないままなされた。

(4) 被告教育委員会教育長青井富三郎は、本件通学区域変更決定がなされた後も未だこれがなされていないかのような言動をとり続け、原告らを欺罔した。このような教育長の言動は民主的教育行政に反するものである。

(5) 本件通学区域変更決定の根拠法条は、地教行法二三条一号、四号に求められるべきであるにもかかわらず、被告はこれを学校教育法施行令五条二項に基づくものとしている。

(二) 内容上の違法

(1) 原告らの居住する八尾市南本町六丁目は、同町五丁目とともに、旧別宮村として長い伝統を受け継ぐ地域であり、そこに居住する住民は、子供会の活動、青年団・老人会の活動などを通じて、強固な団結を保つている。本件通学区域変更決定は、これらの実情を無視し、旧別宮村として一体でありたいという住民の希望を踏みにじるものである。

(2) 本件通学区域変更決定により、原告らの児童は国道二五号線と結ぶ八尾市清掃局前の著しく交通量の多い危険な道路を通学することを余儀なくされることになる。

(3) 本件通学区域変更決定は、高美小に近い原告らの児童をこれよりも遠い高美南小に通学させるなどの不均衡を黙過している。

(4) 高美小の新設に際しては、原告らの居住する南本町六丁目の住民は学校用地の四割を提供し、その後も同小の学校運営に種々尽力してきた。本件通学区域変更決定は、原告らのこれらの尽力を一方的に無視するものである。

(5) 原告らの居住する南本町六丁目には矢作神社があり、同神社境内は、高美小の校外の学習場所として常時使用され、また同神社は、高美小の象徴として、同校の新聞名や校歌に取り上げられている。本件通学区域変更決定は、これらの矢作神社と原告ら児童との結び付きを無視し、児童の教育上、人格形成上、多大の損失を生じさせるものである。

4  以上のように、本件通学区域変更決定は、手続上および内容上違法であるから、それに基づいてなされた本件各就学通知および転学通知も違法である。

5  よつて、原告らは被告に対し、本件通学区域変更決定および本件各就学・転学通知の取消を求める。

二  被告の本案前の主張

本件通学区域変更決定は、通学区域という地理的範囲の設定に止まり、それのみでは右区域内の児童の保護者に対して何ら具体的な権利義務の変動をもたらすものではないから、行政事件訴訟法三条二項の行政処分にはあたらない。

三  請求原因に対する被告の答弁および主張

1  請求原因第1、第2項の各事実はいずれも認める。

2(一)  同第3項(一)(1)の事実のうち、八尾市における小学校の通学区域の変更が通学区改正審議会の答申を受けて被告教育委員会が決定するものとされていること、本件通学区域変更決定が、事前に原告ら住民・保護者の意見を聴取することなくなされたことは認め、その余は否認する。八尾市における諸規則や過去の実例からして、原告ら主張のような慣例は存在しない。

(二)  同項(一)(2)の事実のうち、これまでの通学区改正審議会および被告教育委員会会議における各審議が、いずれも慎重に行なわれてきたこと、本件通学区域変更に関する同審議会および同委員会会議が原告ら主張の日に開催されたこと、同審議会の答申が原告ら主張の日になされたことは認め、その余は否認する。

(三)  同項(一)(3)の事実のうち、八尾市教育委員会会議規則に、同委員会の招集は開催の日時、場所、会議に付すべき事件を各委員に通知してなすと定められていること、八尾市教育委員会傍聴人規則があることは認め、右会議規則に右各通知事項を告示するとの規定があることは否認し、その余は争う。

(四)  同項(一)(4)の事実は否認する。

(五)  同項(一)(5)の事実のうち、被告が、原告ら代理人からの照会文書に対する回答において、原告ら主張の根拠条項を掲げたことは認め、その余は争う。

(六)  同項(二)(1)ないし(3)の各事実のうち、八尾市南本町六丁目が同町五丁目とともに旧別宮村を構成していたことは認め、その余は否認ないし争う。

(七)  同項(二)(4)の事実は概ね認める。ただし、本件通学区域変更決定が、原告らの高美小に対する努力、協力を一方的に無視するとの主張は争う。

(八)  同項(二)(5)の事実のうち、矢作神社が南本町五丁目に存在すること、右神社が高美小の象徴として校内新聞や校歌に取り上げられていることは認め、その余は否認ないし争う。

3  同第4項、第5項はいずれも争う。

4(一)  従前の高美小通学区における人口増加率は、八尾市全体のそれと対比しても極めて顕著であり、同小の児童数は年々増加し、何らの手立てを講じない場合、昭和五二年度には社会増を度外視しても約二〇〇〇名に達することが確実となつた。これに対して、従前の高美小の施設、規模は狭小で、児童一人当りの運動場利用面積は、八尾市の全小学校中ほぼ最下位にあつた。かかる状況のもとで、児童の教育的効果を高めるためには、新設校を設置し、通学区域の改正をなすことが不可欠であつた

(二)  本件通学区域の変更は、右目的を達成するため、被告教育委員会会議において、通学区改正審議会の答申を受けて慎重に審議した上、決定したものであり、これに至る一連の手続は、八尾市における諸規則に則り適法になされているから、そこに何らの違法もない

なお、被告が、あえて関係住民・保護者の意見を聴取しなかつたのは、通学区改正審議会の構成委員からして、そこに全市的、地域的諸事情を踏まえた上での審議が十分なされていると判断したからである。

(三)  本件通学区域の変更に伴い、新設された高美南小での児童一人当りの運動場利用面積は、高美小の二倍強に当る八・五平方メートルとなり、一方、高美小ではプレハブ教室の撤去により、運動場利用面積が回復され、また転学児童の一部の者はプレハブ教室から解放され、新校舎で伸び伸びと学習ができるようになるなど、これがもたらす教育上の効果は計り知れない。

(四)  原告らは、本件通学区域の変更により、種々の不利益がもたらされると主張するが、それらのうち、通学路については、信号灯や誘動員の設置が予定されているし、通学距離の点についても、両校の距離はわずか直線にして七〇〇メートルに過ぎず、これによつて通学距離が極端に遠くなるものでもない。また、その余の点については、いずれも通学区の変更とは直接かかわりのないことであり、多少これにより影響を受けることがあつたとしても、関係者の努力によつて克服されるべきものである。

四  本案前の答弁に対する原告らの反論

本件通学区域変更決定は、後になされる就学および転学通知の根拠となるものであり、これにより被告はのちにこれに従つた通知をなすべき義務を負うことになるから、右決定は、原告らを拘束するものであり、行政処分にあたるというべきである。

第三証拠<省略>

理由

一  請求原因第1、2項の事実はいずれも当事者間に争いがない。

二  原告らは、本件通学区域変更決定が行政処分にあたる旨主張するので、まずこの点について判断する。

市町村教育委員会の設定する公立小中学校の通学区域については、法令上直接これを規定したものはないが、地教行法二三条四号によれば、市町村教育委員会は、学齢児童・生徒の就学に関する事項について、これを管理、執行する権限を有すると定めているから、かかる一般的権限に基づき当該市町村教育委員会は予め公立小中学校の通学区域を設定しておくことができるものというべきである。しかしながら、その場合であつても、学校教育法施行令五条二項、六条は、同一市町村に二校以上の小中学校がある場合、または、小中学校の新設、廃止等により就学を変更する必要がある場合は、当該児童・生徒の保護者に対して就学ないし転学通知をなすべき旨定めているから、右に該当するかぎり右各通知を欠くことは許されないものというべきである。そこで、予め通学区域の設定ないし変更がなされている場合に、それと就学・転学通知との関係が問題となるが、一般に通学区域の設定変更は、児童の通学校を地域をもつて画定するものであり、またそれは、後になされる就学・転学通知の前提となるものであるが、そのことから直ちにこれが一般処分としての行政処分になるものではなく、これが行政処分といえるためには少なくとも国民の権利義務に何らかの影響を与えるような法律的効果をもたらすものでなければならないから、結局のところ、当該通学区域の設定・変更が市町村教育委員会においていかなる手続、形式、内容をもつて決定されているかによつて判断されなければならないというべきである。

成立に争いのない甲第五号証、証人森山一三の証言により真正に成立したと認められる乙第五号証、証人本多秀治の証言および弁論の全趣旨によれば、八尾市における小学校の通学区域の変更は、教育委員会の権限に属する事務の一部を教育長に委任する規則(昭和四二年教育委員会規則第一三号)一条一七号により教育長が同委員会会議にその議決を求め、同委員会会議がこれを議決することによつて決定されるが、右議決自体は、関係児童の保護者に対してはもとより、告示、広報等の形で外部に対して表示されることはなく、後になされる就学・転学通知によつて初めて関係児童の保護者らに対して正式にその児童を就学ないし転学させるべき学校が指定されることになることが認められる。そうすると、本件通学区域変更決定は、被告教育委員会が内部的にこれを決定したに過ぎないものであつて、それ自体としては保護者らに対して何ら権利義務の変動をもたらすものではなく、後になされる就学・転学通知によつて初めて保護者らにその児童を就学ないし転学させるべき義務が生ずるに至るというべきであるから、右変更決定をもつて行政処分と解することはできず、その取消を求める原告らの訴えは却下を免れない。

三  そこで、以下本件各就学・転学通知の違法性の存否について検討する。

1  原告らは、本件通学区域変更決定は手続的に違法であるから、これを前提としてなされた本件各就学・転学通知も違法であると主張するので、まずこの点について検討する。

(一)  住民・保護者の意思を尊重するという慣例の無視ならびに平等原則違反の主張について

本件通学区域変更決定がなされるに際し、被告教育委員会が事前に関係住民・保護者の意見を聴取しなかつたことは当事者間に争いがない。しかしながら、証人田中穰、同阪本多一、同本多秀治の各証言および弁論の全趣旨と前記認定の事実によれば、八尾市において通学区域の変更をなす場合は、被告教育委員会において予め通学区改正審議会の答申を受けてこれを決定することと定められてはいるが、それ以上、関係住民・保護者の意見を聴取しなければならないとの定めは存在しないこと、通学区改正審議会および被告教育委員会としても、個々の構成委員ないしは関係学校長から地域住民の意見が集約され、これが審議の対象となることはあり得ても、事前に地域住民・保護者の意見を聴取する等のことは行なつていないこと、とりわけ本件のように学校の新設に伴う通学区域の変更の場合は、当該学校の新設に要する財政の調整ないしは国や大阪府に対する補助の折衝等の手続が必要であり、これらの手続が履践され、被告教育委員会より通学区域の変更案が通学区改正審議会に諮問されるまでは、これを外部に公表することは差控えられていることが認められ、これに反する甲第一七号証は、前掲各証拠に照らすとにわかに措信し難く、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。そうすると、八尾市において、原告ら主張のように、事前に被告教育委員会が関係住民・保護者の意見を聴取し、その納得を得て通学区域の変更を行うという慣例があるといえないことは明らかであるから、この点に関する原告らの主張は理由がない。

もつとも、前掲本多秀治の証言によれば、過去において、通学区域の変更にあたり、通学区域改正審議会で被告教育委員会から通学区域変更の原案が二案提出され、地元の意見を聞いた上で、答申案が決定された事例もあつたことが認められる。そこで、なおこれらの例と対比して、本件通学区域変更決定が平等原則に違反するかどうかについて検討するに、本来通学区域の変更は、過大学級を防止し、教育の機会均等を図る目的でなされるものであるから、かかる趣旨に出る以上、そこに常に関係住民・保護者の意思を反映させ、あるいはその納得が必要であるとは到底解せられない。しかしながら、もとより通学区域の変更は、その対象となる児童、保護者に対して与える影響が大きいから、そこになるべく関係者の意見を反映させるようにすることは望ましいことであり、かかる趣旨から八尾市においても通学区改正審議会なるものを設置し、その答申を受けて被告教育委員会がこれを決定することとされているものと解されるが、それ以上、個々の事案においてどの程度関係住民・保護者の意見を反映させるかは、結局のところ、通学区改正審議会ないしは被告教育委員会が事案の軽重、通学区域変更の必要性の程度、これが関係保護者らに与える影響等を総合的に勘案して決すべきものと考えられる。従つて、たまたま本件通学区域変更決定に際し、これらの意見が聴取されず、その納得が得られていなかつたとしても、そのことから直ちに、これらの手続がとられた他の例と対比して、本件通学区域変更決定が平等原則に違反するということはできない。

(二)  本件通学区変更に関する通学区改正審議会および被告教育委員会会議における審議がいずれも不十分であり、平等原則に違反するとの主張について

本件に関する通学区改正審議会が昭和四七年六月一三日、同月二〇日、同月二七日の計三回に渡つて開かれ、同月三〇日には被告教育委員会に対して答申がなされたこと、そして翌七月一日に臨時教育委員会会議が開催されたことはいずれも当事者間に争いがなく、証人森山一三の証言によりいずれも真正に成立したものと認められる乙第三号証の二、同第九号証の二、同第二六号証の一ないし三、証人田中穰、同阪本多一、同本多秀治の各証言および弁論の全趣旨によると、第一回目の通学区改正審議会は、午前一〇時から正午までの間開かれ、冒頭に役員の改選、引き続き仮称第二南山本小学校区についての審議が行われたあと、本件に関しての審議が行なわれ、最初に被告教育委員会側から予め各委員に配付されていた、高美小の年度別(昭和四七ないし五二年度)、学年別児童数の推移および各町別の児童数の推移ならびに隣接の安中小学校の右同様の児童数の推移等を記載した資料(図画添付)の説明があり、その後若干の質疑応答がなされたあと、次回に被告教育委から原案を提出してもらうということで閉会となつたこと、第二回目の審議会は、午後一時から開催され、初めに被告教育委員会側から、南本町六丁目を新設の仮称第二高美小学校(現在高美南小)の通学区域に変更することなどを内容とする原案が提出され、これについて新旧の通学区域を明らかにし、これに前回の資料に基づいて統計数字を記載した図面を用いて詳細な説明が行なわれ、次いでこれについての質疑応答がなされたあと、新通学区域および新設予定校の学校用地を対象に現地調査が行なわれ、午後四時半に閉会となつたこと、このうち現地調査では、特に新通学区境の境界となる南本町六丁目と五丁目の境の通路に一時停車し、そこで被告教育委員会側から、同道路が将来八尾市の都市計画街路として拡張される予定であることの説明がなされたこと、第三回目の審議会は、午後一時から同三時半までの間開催され、第二回目に引き続いて原案について各種観点から質疑応答がなされたあと、付帯条件付で原案を答申案とすることで可決したこと、右答申案は、前記の通り昭和四七年六月三〇日に被告教育委員会に提出され、同委員長は即日、翌七月一日臨時教育委員会会議を開催する旨の招集通知を発したこと、同臨時委員会会議は、右七月一日午前九時五〇分から同一〇時四五分までの間開催され、本件のほか二校の通学区域の設定ならびに変更についての審議が行なわれ、本件については被告教育委員会から答申案についての説明がなされ、若干の質疑応答がなされたあと、答申案通り可決されたこと、なお、各委員には予め図面添付の資料が配付されていたことが認められ、右認定に反する甲第一九号証は前掲各証拠に照らしてにわかに措信できない。

一般に、合議体における審議が手続上適法になされている場合に、なおかつその違法をいうためには、それが審議の名に値しない程極端に形骸化されている場合とか、審議において個々の構成員の発言の機会が封じられているなどの場合に限るというべきところ、前記認定の事実によれば、本件に関する通学区改正審議会の審議および臨時教育委員会会議における審議は、事前にそれぞれ原案、答申案についての説明がなされ、これについて各委員の発言の機会も与えられた上なされているから、これがいずれも審議の名に値しないとは到底いえないし、いずれの審議においても新通学区域について図面でこれが明らかにされ、これを前提にして審議が行なわれていることや、通学区改正審議会においては、現地調査も行なわれているから、通学区域の線引きそのものについても審議がなされていることは明らかである。

また、一般に、合議体における審議の招集から開催までの日時および審議の時間の長短、質疑応答の多少、審議の内容等は、個々の事案によつて差異があるのは当然であり、他の場合と対比して違いがあるからといつて直ちにそれが平等原則に違反するというものではない。

(三)  本件臨時教育委員会会議の招集手続および傍聴手続が、それぞれ八尾市教育委員会会議規則、同委員会傍聴人規則に違反するとの主張について

八尾市教育委員会会議規則において、教育委員会会議を招集するときは、開催の日時、場所、会議に付すべき事件を各委員に通知することと定められていることについては当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第一号証によれば、昭和四七年五月一〇日施行の同会議規則によれば、同会議の招集手続は右通知をもつて足りると規定されていることが認められる。ところで、証人森山一三の証言により真正に成立したと認められる乙第四号証、証人田中穰、同本多秀治の各証言によると、本件臨時教育委員会会議の招集は、予め各委員に架電し、都合を確かめたあと直ちに被告教育委員会委員長名で、各委員に対し、会議開催の日時(七月一日午前九時三〇分)、場所(教育センター音楽室)、付議事件(仮称第二高美小学校及び仮称成法中学校区設定並びに曙川小学校区変更の件)を記載した「七月臨時教育委員会の会議招集告知」と題する書面を送達することによつてなされたことが認められる。従つて、本件招集手続が前記規則に則つてなされたことは明らかであり、そこに何らの違法はない。

次に、成立に争いのない甲第七号証によれば、八尾市教育委員会傍聴人規則は、同委員会会議は、秘密会と決定した場合を除いて、傍聴希望者に対しては原則としてこれを傍聴させなければならない旨定めていることが認められる。ところで、弁論の全趣旨によれば、原告らが本件臨時教育委員会会議の傍聴を希望して予め申込むなどの手続をとつた事実は何ら認められないから、被告教育委員会が原告らに対して傍聴の機会を与える措置を積極的にはとらなかつたとしても何ら右規則に違反するものではない。

(四)  なお、原告らは、本件通学区域変更決定がなされたあとの被告教育委員会教育長の発言をとらえて、これを違法事由として主張するが、右発言が本件通学区域変更決定はもとより、その後なされた本件各就学・転学通知の効力に何ら消長をもたらすものではないことは明らかであり、また原告らは、被告教育委員会が、本件通学区域変更決定の根拠法条を誤つて示したとしてこれもその違法事由として掲げているが、本件通学区域変更決定が、その権限を有する被告教育委員会によつて決定されたことは既にみたとおりであり、そうである以上、被告がその根拠法条を誤つて示したとしても、そのこと自体右決定の効力には何ら影響するものではない。

2  次に、原告らは、本件通学区域変更決定は内容的にも違法であるから、これを前提としてなされた本件各就学・転学通知も違法である旨主張するので、以下この点について検討する。

(一)  証人森山一三の証言により真正に成立したと認められる乙第七号証の一ないし三、同第八号証、同第一一号証、同第一六ないし第一九号証、同第二二ないし二五号証、前掲乙第九号証の二、同第二六号証の一ないし三、証人本多秀治、同森山一三の各証言および弁論の全趣旨によれば、本件通学区域変更決定がなされた経緯ならびにその後の状況については以下のとおり認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(1) 旧高美小通学区域の人口増加率は、八尾市全体と比較しても特に顕著で、これを昭和四五ないし同四九年度についてみると、旧高美小通学区域の所帯数の伸び率は八尾市全体の伸び率を二倍以上上回つており、これを児童数についてみると、旧通学区域の場合の高美小の児童数は、昭和四八年度が一四九〇名(四八学級)、昭和五〇年二月二八日現在では一六五三名(四九学級)であり、そのまま何らの措置を講じない場合は、昭和五二年度には社会増を度外視しても約二〇〇〇名(五七学級)に達することが統計上予想されるに至つた。これに対して、高美小の施設、規模は、敷地面積一万五一七〇平方メートル、運動場面積七八一八平方メートル、本教室三四(特別教室四を転用)、プレハブ教室一三で、児童数の増加をかろうじてプレハブ教室によつてまかなつている状態であつた上、前記昭和五〇年二月二八日現在の児童数から児童一人当りの運動場利用面積を算出すると四・七平方メートルとなるが、実際は、右のように運動場にプレハブ教室が設置されているためこれよりもさらに少なくなり、これを八尾市全体の小学校と対比するとほぼ最下位にあたるという状態であつた。このため、このようなマンモス校化、過大学級化を回避し、プレハブ教室を解消するために、学校を新設し、通学区域を変更することが不可欠かつ急務であつた。

(2) 右状況のもとで本件通学区域変更決定がなされたものであるが、通学区域をいかに画定するかについては、旧高美小通学区域はもとより、周辺小学校の通学区域の各学年別・町別児童増加数と、高美小および新設校の施設、規模とを照らし合わせた上その適正な児童数の配置がなされるよう考慮され、かつ、本件南本町六丁目と五丁目とを隔てる道路が将来八尾市の都市計画街路として拡張される予定であることなどが加味されて決定された。

(3) 本件通学区域の変更により、高美小ではプレハブ教室が解消されたほか、同小の昭和五〇ないし同五二年度の予定児童数はそれぞれ一一五五名(二八学級)、一一九八名(三〇学級)、一二四三名(三一学級)となり、また高美南小では、それぞれ八六一名(二九学級)、九二六名(三一学級)、九六九名(三三学級)となつて、両校ともほぼ適正な児童配置がなされることになるほか、高美南小の児童一人当りの運動場利用面積は、右昭和五〇年度の予定児童数の場合についてみると、八・五平方メートルにも達することになる。

なお、これにより原告らの児童の通学路および通学距離が異なることになるが、通学路については南本町六丁目と七丁目とを隔てる道路について、高美南小開校日までに路上白線の設置をなし、将来はガードレール等の設置も考慮すること、右道路の八尾市清掃庁舎北西の変形十字路について、地元の了解を得て一方通行などの措置を講じた上、信号灯の設置をなすこと、高美南小北西の十字路について、昭和五〇年七月までに信号灯の設置をなすこと、右各信号灯設置までの間は、当該十字路に誘動員を配置させ、児童の安全を図ること、がそれぞれ計画、予定され、その後これらはほとんど整備され、通学距離については、原告らの居住する南本町六丁目から高美小ないし高美南小までの直線距離は、高美南小までの距離が約二、三百メートル長いという程度に止まる。

(二)  原告らは、本件通学区域の変更により、従前旧別宮村として子供会、青年会、老人会等の諸活動を共に行なつて来た南本町五丁目と六丁目の住民・児童のつながりが失われ、また、原告らを初めとする南本町六丁目の保護者らが従前高美小に対して供与してきた各種便益が無に帰すことになり、さらに、原告ら児童と由緒ある矢作神社とのつながりが失われ、児童らにとつて好ましくない影響が生ずる旨主張する。なるほど本件通学区域の変更が、原告ら児童・保護者に対し、その主張するような意味で多かれ少なかれ何らかの影響を及ぼすであろうことは想像に難くないが、前記認定の本件通学区域変更の必要性およびそれによつてもたらされる教育上の諸効果等に照らすと、これら影響は原告らにおいてやむを得ないものとして受忍すべきものであり、いずれも本件通学区域変更決定の違法事由たり得ないものといわなければならない。

また、原告らは、本件通学区域の変更により、原告らの児童が交通量の多い危険な道路を通学しなければならない旨主張するが、前記認定のとおり、原告らの懸念する南本町六丁目と七丁目を隔てる道路には各種安全対策が講ぜられており、これによつて通学上生ずる危険は大部分回避されると考えられるし、また、原告らは、本件通学区域の変更により、通学距離が遠くなる旨主張するかのようであるが、これも前記認定によれば、せいぜい二、三百メートルに過ぎず、右のいずれも原告ら児童の教育を受ける権利を侵害する程のものとは到底いえないから、これまた本件通学区域変更決定を違法ならしめるものではない。

四  以上みてきたところによれば、本件通学区域変更決定には何ら違法はなく、従つて、それに基づいてなされた本件各就学・転学通知もまた適法である。

五  よつて、原告らの本訴請求のうち本件通学区域変更決定の取消を求める部分は、右決定が行政処分にあたらないからこれを却下することとし、その余の請求についてはいずれも理由がないからこれらを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 荻田健治郎 寺崎次郎 近藤壽邦)

保護者目録(一)、(二)<省略>

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